2020.03.20ウェルネス寺社Now総研
ウェルネス分野が世界的に急成長。日本でも確立が急がれる
ウェルネスは「身体の健康、精神の健康、環境の健康、社会的健康を基盤にして豊かな人生(QOL)をデザインしていく生き方、自己実現」と私は定義しています。そして自己実現に向けて何かに没頭する、生き甲斐を見つけ熱中している時も輝く人生のただ中であり、ウェルネスだと考えられます。
これまでのウェルネスは医学や健康、体力づくりの分野での教育や普及活動が主流でしたが、近年あらゆる業界で注目が高まっています。なかでもツーリズム業界では、世界の名だたるホテルチェーンや旅行社がウェルネスを新しいビジネステーマ、チャンスと捉え、ウェルネスを前面に打ち出したメニュー開発、サービスを提供しはじめています。
そんななか、日本独自のウェルネスを議論し、世界へ通用するジャパンウェルネス(Jウェルネス)を確立しようという機運が高まりつつあります。そのために重要なのは、世界的な潮流として多様化する顧客ニーズに高付加価値型の観光を実現していくこと。ほかの国々には真似のできないものを提供する必要があるとも言えます。では、日本が世界に対して優位に提供しうる価値とは一体何でしょう?
寺社による取り組みは大きな可能性を秘めている
人を惹きつける観光地の4条件には、「気候」、「自然」、「食」、「文化」があるといわれます。日本は温帯で穏やかな気候に恵まれ、四季折々の美しい自然と情緒に溢れ、豊かな海洋資源と島嶼の多様性を有し、源泉数2万8000を超える世界有数の温泉大国であり、世界無形文化遺産に登録された和食文化、地域固有の食材、世代を超えて受け継がれてきた歴史文化、伝統芸能、様式美の数々、「禅」「道」を究める精神性といった優れた観光地の潜在的条件を見事に備えています。
こうしたポテンシャルを再認識すること、日本的な「感性」、「美意識」や徹底した「和」の追求こそ、日本のウェルネスを構成していくうえで重要です。この点で考えると、寺社がウェルネスに取り組むことが大きな可能性を秘めていると言えます。
ウェルネスは心の癒し、魂の癒しを求める生き方であることから、聖地を目指す「巡礼」もまたウェルネスツーリズムの起源のひとつといえます。キリスト教の三大聖地であるローマ(バチカン)、エルサレム、サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼、イスラム教におけるメッカへの巡礼、ヒンドゥー教徒にとってのガンジス川、ヒマラヤの大自然など、世界各地にみられる巡礼は、聖なるものに接近し、魂の安寧、癒しを得る旅でもあります。交通が発達していない古代では、数年をかけて聖地を目指しました。それはもはや人生の一部に組み込まれたもの。雄大な自然、人類の営みの歴史で特別な意味を持つ土地を訪れることは、魂を癒すとともに、内なる自分と向き合う時間で過去、現在と向き合い、未来の生き方をデザインする、心身にとって大切なひとときとなってきたのです。
ウェルネスの目的地として、地域を巻きこむ存在に
全国津々浦々にある寺社は、地域にとって、訪れる人にとって、その人のライフスタイルや人生に組み込まれる大切なウェルネスの目的地になり得ると考えられます。寺社がウェルネスに取り組むことで、第3の場「ウェルネス・サードプレイス」という、心身の健康はもとより、自分の原点に還る場、自己開発、自己実現を図ることができる場、そして、何度も帰る場として人々の人生に組み込まれていく価値を提案することができるのです。
それは都市と地域の人々の拠り所であるとともに、地域のウェルネスメニュー開発に関わる事業者、異業種とのアライアンス(連携)を生み出す場、シナジー(相乗効果)を生み出す起点という価値も提案できます。寺社が地域の産業活性の起点となる新たな関係性と価値の創造、これは地域の疲弊を救う地方創生に資するものでもあります。
働き方改革、企業社員のメンタルヘルス対策、健康経営という国家的課題に対しても、寺社が果たす役割が期待されます。首都圏や都市型ライフスタイルで慌ただしい高度情報社会、競争社会に忙殺される人々に対し、地域固有の資源を「ウェルネス資源」として掘り起こし、企業社員のメンタルヘルスや生産性向上に寄与するウェルネスツーリズムとしてプログラム化する、これを提供する中心(センター)が寺社であっていいと思います。寺社が自ら積極的にウェルネスに取り組むことによって、地域と社会、国家的課題解決に寄与する立場になる、寺社の新しい役割の創出は寺社活性化にもつながるものと考えられます。